黄色ブドウ球菌が血液培養で陽性になったけど、どんな対応をすればよいのかわからない!
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は臨床でよく見かける細菌の一つですが、一言で表現すると「やっかいな細菌」です。特に血液培養で検出されると特別な対応が必要です。
本記事では黄色ブドウ球菌が検出された際の
- 対応
- 考え方
以上ついて基本から最近のエビデンスまで解説していきます。
ご意見、ご質問等ありましたらお気軽にお願いいたします。
本日の参考文献
JAID/JSC感染症治療ガイド2023(2023 日本化学療法学会)
Clinical approach to Staphylococcus aureus bacteremia in adults (Up to date)
Update on Staphylococcus aureus bacteraemia. Epub 2022 Aug 4. PMID: 35942696.
Persistent Methicilin-Resistant Staphylococcus aureus Bacteremia: Resetting the Clock for Optimal Management. Clin Infect Dis. 2022 Oct 29;75(9):1668-1674. PMID: 35535790
Staphylococcus aureus bacteraemia mortality: a systematic review and meta-analysis. Clin Microbiol Infect. 2022 Aug;28(8):1076-1084. PMID: 35339678.
Limitations of ceftriaxone compared with cefazolin against MSSA: an integrated pharmacodynamic analysis. J Antimicrob Chemother. 2018 Jul 1;73(7):1888-1894. PMID: 29635472.
感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)
そもそも黄色ブドウ球菌とは?
コアグラーゼ産生菌と非産生菌
コアグラーゼ産生ブドウ球菌 | 黄色ブドウ球菌 |
コアグラーゼ非産生ブドウ球菌 | その他のブドウ球菌属(CNS) |
ブドウ球菌属の中には、血液凝集酵素である“コアグラーゼ”を産生するものと産生しないものがあります。産生するものは黄色ブドウ球菌、それ以外は基本的にはコアグラーゼを産生しません。コアグラーゼを産生しないブドウ球菌のことを、CNS(coagulase negative staphylococci)と言います。たとえば、CNSの中には表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)などがあります。
一般的に臨床上問題となる細菌はコアグラーゼを産生する細菌、つまり黄色ブドウ球菌です。逆に、コアグラーゼを産生しないブドウ球菌属は、一部のブドウ球菌以外は黄色ブドウ球菌ほどは問題にになりません。
MSSAとMRSA
黄色ブドウ球菌は学名を”Staphylococcus aureus”(スタフィロコッカスアウレウス)と言います。臨床現場で、MSSAとかMRSAと呼んでいるのを聞いたことがある方も多いと思います。
略語 | 正式名称 | 日本語名 |
---|---|---|
MSSA | Methicillin‐Sensitive Staphylococcus aureus | メチシリン感受性黄色ブドウ球菌 |
MRSA | Methicillin‐Resistant Staphylococcus aureus | メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 |
黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusは健康な成人の約30%の鼻腔に存在し(通常は一時的)、約20%の人の皮膚に存在します。入院患者や病院で働く人では、この割合がさらに高まります。
MSDマニュアル家庭版
黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)
いわゆる黄色ブドウ球菌の菌血症のことを、臨床では
“SAB”(さぶ) = Staphylococcus aureus bacteremia
と呼びます。
実臨床での感覚ではあまり認識されないことも多いのですが、非常にシビアな疾患です。
3ヶ月死亡率は27%
1991年から2021年までの30年間に蓄積された53万人以上のSAB患者データを使った研究(メタアナリシス)では、7日間死亡率が10.4%、3ヶ月以内の死亡率は27.0%でした。この30年間でSABによる死亡率は低下傾向ではありますが、命に関わる疾患であることには変わりありません。(Clin Microbiol Infect. 2022 Aug;28(8):1076-1084. PMID: 35339678)
この研究からは、SABに罹患すると10人に1人は7日以内に死亡、4人に1人は3ヶ月以内に死亡してしまうのが現状です。SABはより早く治療を開始し、油断せずに3か月以内に徹底的に叩くことが必要です。
重篤な合併症のリスク(感染性心内膜炎)
黄色ブドウ球菌菌血症は心臓の弁の感染症=感染性心内膜炎のリスクになります。
日本では感染性心内膜炎の3分の1の症例で起因菌が黄色ブドウ球菌と言われています。弁破壊や周囲に膿瘍を形成する、遠隔感染を起こすなど、黄色ブドウ球菌が菌になると非常に厄介です。(感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版))
SABバンドル
SABには「バンドル」といって治療のルールがあり、臨床でよく使用されています。
日本化学療法学会と日本感染症学会から公開されているJAID/JSC感染症治療ガイド2023では以下のようにバンドルの例として記載されています。
①疑わしい血管内デバイス(中心静脈カテーテル,ポートなど)を抜去する。
②治療期間:基本的には血液培養陰性化から4週間を静注で完遂する。
◆下記の7条件をすべて満たす場合は,治療期間は血液培養陰性化から2週間に短縮できるかもしれない。
(1)糖尿病がない。
(2)免疫不全がない。
(3)カテーテルが抜去されている。
(4)血管内人工物がない。
(5)感染性心内膜炎や化膿性血栓性静脈炎がない。
(6)抗菌薬開始後72時間以内に解熱し,血液培養が陰性化している。
(7)播種性病変を疑う所見がない。
③抗菌薬治療開始後48~96時間で,血液培養2セットを再検する。
◆有効な抗菌薬治療にもかかわらず持続菌血症があれば,血管内合併症(心内膜炎,化膿性血栓性静脈炎,血管内デバイスへの感染)の可能性を考える。
④経胸壁心エコーを行う。
◆感染性心内膜炎を強く疑うにも関わらず経胸壁心エコーで疣贅などを認めない際は,経食道心エコーを検討する。
◆感染性心内膜炎を疑う所見があれば,適宜循環器内科や心臓血管外科へコンサルト。
JAID/JSC感染症治療ガイド 2023
ざっくりまとめると以下の通りです。
- カテーテルは抜去
- 抗菌薬は最低でも血液培養陰性化から2週間(基本は4週間)
- 抗菌薬治療を開始して2~4日でもう一回血液培養を採取
- 心エコー実施
治療期間は少なくとも2週間です。熱が下がった、炎症反応が落ち着いた、などの理由で抗菌薬が終了しないように薬剤師は正しくモニタリングを行いましょう。
2週間以内に抗菌薬を中止してしまって再発している症例は意外とよくあります。
2022年の報告では、MRSA菌血症(SABのひとつ)の場合に血液培養の再検査を最初の陽性後24-48時間以内に推奨しています。上記のガイドラインよりも早めです。
抗菌薬を開始して1日後でも陽性になる場合は”worry point”として、転移性感染や治療失敗の可能性を指摘しています。また、3-5日持続して血液培養が陽性になった場合は抗MRSA薬の変更を考慮すべきです。
さらに、症例によっては一度血液培養が陰性になっても再度陽性になる「スキップ現象」と言う現象が起こることがあり、血液培養は陰性化してもこまめに採取することを提案しています。(Clin Infect Dis. 2022 Oct 29;75(9):1668-1674. PMID: 35535790)
どんな抗菌薬を使うべき?
基本的には血液培養の感受性試験結果を参照して抗菌薬を使用していきます。
MSSAであればセファゾリン(CEZ)に感受性があることがほとんどですし、MRSAであればバンコマイシン(VCM)に感受性があることが多いです。MSSAであればCEZへの変更を勧めていきましょう。逆にMRSAだった場合はVCMのMICを確認してMIC≦1であればVCMを選択します。
時々、こんなことを言われることがあります。
まだ患者さんの熱が高くて。CEZだとスペクトルが狭くて心配だからセフトリアキソン(CTRX)あたりはどう?
確かに、抗菌薬のde-escalationをするときには感染巣の特定や患者の臨床症状の改善が前提となります。主治医の立場に立てば広域抗菌薬を使用していたほうが感染症に対してリスク分散ができるという認識も理解できます。
しかし、広域抗菌薬を使用することは、耐性菌出現のほか、Candida 血症やClostridioides defficile感染症にかかるリスクが増加します。なるべくスペクトラムが狭い抗菌薬を使用することは原則です。
また、MSSAに対する抗菌薬としてCEZとCTRXを比較した2018年の報告があります。これはモンテカルロシミュレーションという手法を用いたシミュレーションではありますが、CEZではMSSAの殺菌性が97%であったのに対し、CTRXでは17%であったと述べています。これはCEZの方がMSSAに対して活性が高い(強い)抗菌薬であることが示唆されます。(J Antimicrob Chemother. 2018 Jul 1;73(7):1888-1894. PMID: 29635472.)
まとめ
黄色ブドウ球菌菌血症は臨床上とても神経を使う感染症の一つです。この疾患は合併症が起こりやすく重篤化しやすい特徴があります。
治療は注射抗菌薬の長期使用で徹底的に行う必要がありますし、複数回の血液培養でしっかりとモニタリングをする必要があります。
治療の基本を正しく取り入れ、この疾患の治療失敗を起こさないように注意していきましょう。