添付文書では腎機能障害患者には使えない
2022年9月現在、新型コロナウイルスの治療薬はさまざまなものが市場に出ています。
その中でもレムデシビル(ベクルリー®)は、有効性が高く、入院または死亡のリスクを87%減少させる※1と言われています。
軽症から重症患者まで幅広く使用できる抗ウイルス薬として、臨床現場で使用することが多い薬剤の一つです。
しかし、臨床で仕事をしていると時に主治医からこんな相談が来ます。
森くん、COVID-19の患者さんにベクルリーを使用したいんだけど、腎機能障害があって、eGFRが30を切っているんだよね。
添付文書を見るとベクルリーはGFR 30未満には推奨されていないみたいだね。
でも、嚥下が悪いからラゲブリオやパキロビッドは使いたくなくてね。
どうしたらいいかな。
ベクルリーは、添付文書上では「重要な基本的注意」に以下の記載があります。
添加剤スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウムにより腎機能障害があらわれるおそれがあるので、投与前及び投与開始後は定期的に腎機能検査を行い、患者の状態を十分に観察すること。
ベクルリー添付文書より引用
添加物として入っているスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウムが腎に蓄積する事が非臨床試験で認められたからです。
さらに、重度の腎機能障害患者(eGFRが30mL/min/1.73m2未満)に対する投与に関しては以下の記載があります。
投与は推奨しない。治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を考慮すること。
ベクルリー添付文書より引用
ただし、これは“非臨床試験”の結果から言われていることであり、腎機能障害患者に対する“臨床試験”は行っていません。
つまり、添付文書が言いたいのはこうです。
「腎機能障害患者に対する臨床試験は実施していないけど、とりあえず腎に蓄積して有害事象が起こる恐れがあるから使わないほうが良いよ」
だから、“本当に”、腎機能障害の患者に投与すると有害事象のリスクが臨床効果のベネフィットよりも上回るのか、
つまり、「投与ができないのか」を判断することはできません。
Pub Med で論文を探してみた
他に代替薬があれば別ですが、コロナの治療薬、特に抗ウイルス薬は非常に限られています。
正直、現在信頼できる注射薬はベクルリーのみ。。。
そうなったら自分で論文を漁って調べるしかありません。
Pub Medで「Remdesivir Renal function」
で検索すると、67件(記事執筆時点)ヒットしました。
腎機能障害に使って問題があった論文は見つからなかった
結論から言うと、
「腎機能障害に使っても問題なさそう」
です。
多くの論文が投稿されていますが、腎機能障害患者に対して投与しても問題なかった※2と言ったものや、COVID-19の予後が非常に悪いと言われている透析患者に対する研究においても問題はなかった※3としているものがあります。
また、添付文書でカットオフとなっているGFR 30以上の群と30未満の群で分けて試験を行い、問題がなかったといったものもありました※4。
でも、やっぱり懸念点はありそう
とは言いつつも、懸念すべきところはいくつかあるのかなーと思います。
一つは、単一施設のデータが多く、そもそも論文自体もまだ限られた数しかないことです。
やはりみんな疑問に思うので世界中で調査を行っていますが、「絶対に問題はないんだ」と信頼できるレベルのエビデンスではないと思っています。
今後、多くのデータが集まってきてメタ解析を行ったり、もっとビッグデータで前向き研究を行い、エビデンスレベルの高いデータとなればより説得力は増すと思います。
もう一つは、レムデシビルは腎機能が悪くても問題なく排泄できるけど、“レムデシビルの代謝物”は腎機能障害患者で蓄積される可能性があることです。
腎機能障害患者に対してレムデシビルとレムデシビルの“代謝物”の薬物動態を調査したところ、レムデシビルは問題なかったが、“代謝物”は排泄が遅れた※5といった報告や、代謝物の薬物動態は腎機能に依存していた※6という報告が散見されました。
やはり、上記に示した添加物である、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウムが何らかの関与を示しているのではないかと思います。
現場ではどうすればいいか
COVID-19の治療薬は限られています。
特に現在使える注射薬は実質ベクルリーのみです。
そんな中で、我々はどうにかして患者さんを救う方法を考えなくてはなりません。
「リスクとベネフィットを比較し、ベネフィットが有意と思われるときに使用する。」
この基本に立ち返ることが大切だと思います。
具体的に言えば、「腎機能は非常に悪いけど、コロナで死ぬよりは投与したほうが良いだろう。」
こういう時には投与を検討すべきだと思います。
とりあえず今の段階では腎機能障害があってもしっかり腎機能のモニタリングをしながら投与することができると考えられます。
特に、ベクルリーなどのCOVID-19治療薬は企業が急いで作ったため、使用データが少ないです。
添付文書に書いてあることは間違いではありませんが、臨床の薬剤師としては、より最新の情報を取り入れて実際の診療の支援ができると医師の信頼も得られますし患者の利益も向上します。