AS活動をするうえで、抗菌薬使用の評価にどんな指標を用いていますか?
最も一般的な指標は、AUDやDOTだと思います。
臨床現場では、J-SIPHEというシステムを使用することで、とても簡単にAUDやDOTを算出し、多施設と比較することも可能になりました。AS活動をしている薬剤師にとってはおなじみだと思います。
ただ、最近新しい指標が生まれたことをご存知でしょうか。
それが“DASC”です。
まだ聞いたことがない方や、少し耳にしたことがある程度という方も多いと思います。
この記事では、「DASCとは何なのか」「今後使える指標なのか」これらについて現時点での僕の考えを解説していきます。
ご意見、ご質問等ありましたらお気軽にお願いいたします。
本日の参考文献
Days of Antibiotic Spectrum Coverage Trends and Assessment in Patients with Bloodstream Infections. PMID: 36551402
Days of Antibiotic Spectrum Coverage: A Novel Metric for Inpatient Antibiotic Consumption. PMID: 34910130.
Tracking antimicrobial stewardship activities beyond days of therapy (DOT): Comparison of days of antibiotic spectrum coverage (DASC) and DOT at a single center. PMID: 36625069.
DASCとは
DASCの正式名称は、”Days of Antibiotic Spectrum Coverage”.直訳すると「抗生物質スペクトラムのカバー日数」です。
簡単に言ったら抗菌薬のスペクトルを加味した適正使用の評価方法です。
これまでの抗菌薬の評価方法と言えば、DOTやAUDです。しかし、これらは一定期間内に使った抗菌薬の使用日数や使用量はわかりますが、それが抗菌薬適正使用として妥当であるかの判断は難しかったです。「使用日数が減ったから」とか「使用量が減ったから」という理由では適正使用かどうかはわからないからです。
それを解決したのが、DASCです。
DASCの考え方は簡単です。
抗菌薬の使用日数 × ASCスコア
ASCスコアとは
ASCスコアと言うのは、抗菌薬ごとに定められたスペクトルの広さを示す定数です。
これは、一般的に知られている16の細菌のそれぞれに対して抗菌活性があれば1,なければ0としてスコアリングしています。
たとえば以下のようになります。CEZ(セファゾリン)であればASCスコアは3です。
S.aureus | Streptococcus spp | E.faecalis | Anaerobes | B.fragilis | Moraxella/H. influenzae | E. coli/K. pneumoniae | Enterobacter/Serratia/Citrobacter | P.aeruginosa | A.baumannii | Atypical | ESBL | MRSA | PRSP | VRE | CRE | |
CEZ | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
このように非常にシンプルな方法で抗菌薬のスペクトルを数値化しています。
DASCのイメージ
先ほど述べた通り、DASC=使用日数 × ASCスコア です。
つまり、DASCは以下のように考えることができます。この例でのDASCは86となります。
day1 | day2 | day3 | day4 | day5 | day6 | day7 | day8 | day9 | day10 | |
MEPM(12) | 12 | 12 | 12 | 12 | ||||||
VCM(5) | 5 | 5 | 5 | 5 | ||||||
CEZ(3) | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 |
MEPM:4×12=48
VCM:4×5=20
CEZ:6×3=18
合計:48+20+18=86
DOTのおさらい
ここまで読んでもDASCとDOTは何が違うのかわからない。そんな方もいるかもしれません。
簡単に言えば、DOTは投与された日数、DASCは投与された日数にASCスコアを掛け合わせているものです。
DOTは以下のような考え方で算出します。
先ほどの例で説明します。DOTは投与されている日数だけなので…
day1 | day2 | day3 | day4 | day5 | day6 | day7 | day8 | day9 | day10 | |
MEPM | 1 | 1 | 1 | 1 | ||||||
VCM | 1 | 1 | 1 | 1 | ||||||
CEZ | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
MEPM:4
VCM:4
CEZ:6
合計:4+4+6=14
このようになります。
説明のために簡単にしましたが、実際のAS活動でのDOTの計算式は一般的に以下の式を使い、入院患者1日あたりの値として算出します。
DOT=抗菌薬述べ投与日数/入院患者延べ日数 × 1000
DASCはDOTの代わりになるのか
DASCとDOT、一見似ている指標のように感じるかもしれません。しかし、DASCはDOTとは相関性がないことが参考文献で示されています。
そのためDASCとDOTは分けて考える必要があります。
DASCのメリット/デメリット
メリット
- 抗菌薬のスペクトルを加味しているのでより抗菌薬適正使用の評価に則している
- 計算方法が簡単である
デメリット
- 感染部位により数値にばらつきが生じてしまうことがある(例えば、骨髄炎はやむを得ず長期投与となるため適正に使用していてもDASCが大きくなる)
- 新しい指標であるためエビデンスが限られている
- 今後スタンダードになるかは不明
DOTあたりのDASCでならすとよい?
DASCデメリットとして感染部位によって数値のばらつきがあることを上げました。その対策としてどのようにすればよいのでしょうか。
結論、DOTで割ることです。
つまり、“DASC/DOT”という指標を用いるのです。
DOTは簡単に言ったら抗菌薬を投与された日数を表す数字です。そのため、DASCをDOTで割ることによって1日当たり(1DOTあたり)のDASCを算出することができます。そうすることによって、骨髄炎のように長期投与がやむを得ない症例があった場合でも、日数のバイアスをならして、使用された抗菌薬の“抗菌スペクトル”に注目して数字を算出することができます。
結論
DASCは2022年9月に初の報告があった新しい指標です。これまでに3報の論文のみなので、スタンダードな抗菌薬適正使用の指標になるかどうかはわかりません。追加の報告が待たれます。
しかし、私個人的には非常に簡単で理解しやすく、使いやすいものなのではないかと思っています。普段はDOTやAUDを使用していますが、本当に適正使用になっていたかを評価することは難しいと思っていました。
DASCの欠点が今のところ少なく感じる部分はあるので、これからさらに検討してみたいと思っています。とにもかくにもこういう新しい情報をもとに臨床を考えることは楽しいですね。