学生からよく質問をもらいます。
臨床試験は読んだほうが良いですか?
薬学部では臨床試験を読む機会はほとんどありません。
実習ならではの質問です。
これに対する私の答えは「YES」です。
気になる薬剤に関しては臨床試験を理解することは非常に有益です。
その薬が、どんな利益や不利益があって承認されたかがわかります。
添付文書やインタビューフォームに記載されていることをそのまま知識として取り入れることも良いことです。
しかし、それらはすでに出来上がっている情報です。
臨床試験は、その薬の承認申請に使用する情報です。
その薬の背景がすべて載っています。
そこで今回は、わすれがちな臨床試験の流れを超簡単に復習します。
ぜひ理解して医師や他の医療従事者とのかかわりをより良いものにしましょう。
とりあえず“臨床試験”を理解しよう
新しい薬剤が開発されて世の中に流通するまでは、多くの手続きが必要です。
その中には、
- 基礎研究(薬剤の成分の発見)
- 非臨床試験(動物実験)
- 臨床試験(ヒトを対象にする)
- 承認申請
- 薬価収載
- 市販後調査
など、さまざまなものがあります。
全て理解することはもちろん良いことです。
しかし、全て理解しようとすると頭の中がごちゃごちゃしてしまってどれもあいまいな知識になりがちです。
今回は、このなかでも“臨床試験”にフォーカスします。
なぜなら承認される時に最後に提出される重要な情報だからです。
また、“ヒト”に対して試験をしているため、みなさんのように実臨床で働いている方も直接的にその情報を利用することが可能です。
さっそくですが、臨床試験の中でもいくつかのフェーズに分かれていました。
どんなフェーズがあったでしょうか。
臨床試験の3つのフェーズ
臨床試験は3つのフェーズに分かれます。
- 第1相試験
- 第2相試験
- 第3相試験
どんな試験だったか覚えているでしょうか。
対象となる人、何を知るための試験かを確認していきましょう。
第1相試験
第1相試験の対象者は、
比較的少数の、健康な人
です。
また、このフェーズでは大きく2つのことを知るために行います。
それが、
- 薬物動態
- 安全性
です。
まずはその薬物が体内に入ってどのように吸収して分布して、代謝・排泄までされるのかを検証します。
初めてヒトを対象に行うことになるため、人数は少数で、健康的な人である必要があります。
第2相試験
第2相試験の対象者は、
比較的少数の患者
です。
このフェーズでは何を知るのでしょうか。
それは
- 有効性
- 安全性
- 投与量
などを調べます。
プラセボと比較したり、既存の類似医薬品と比較して調査することが一般的です。
第3相試験
第3相試験の対象者は、
多数の患者
です。
このフェーズでは、主に
- 有効性
に関してそれまでに検討されてきたものを証明するために大規模に行います。
従来の医薬品やプラセボと比較して盲検試験を行うことが一般的で、患者数も数百人規模で多施設で行います。
どんな時に臨床試験を読むの?
臨床試験は、新しい医薬品の評価をするときや、既存医薬品でも抗がん剤など強烈な効果と副作用が伴う医薬品を使用する時などに読みます。
なぜなら、臨床試験はさまざまなことを試した結果が書いてあるからです。
既存の医薬品との違いはどんなところにあり、どんなメリット、デメリットがあるのかを理解することで新薬と既存薬の使い分けをすることができます。
たとえば、その薬剤の有効性はどの程度で、実際にその患者に使うことによってどのくらいの効果が見込まれるのか、または副作用のリスクが予想されるのか。
臨床試験を読むとこのようなことがわかります。
特に抗がん剤などは、強烈な副作用が伴うことが多いので、リスクとベネフィットを天秤にかけて慎重に治療選択をします。
そんな時にその薬剤の背景データである臨床試験を読んで治療方針を決定することがあります。
ぜひこれから臨床試験を読んで薬をさらに深く理解しましょう。